コントラスト
個人的な蔑称が何年も何年も私の人生にまとわりついてくる。しかしもう過去の私を知る者は周りにはいない。ただ名前だけが一人歩きして、私を先回りして待っている...が、私が思っている以上にその呼び名は人にポピュラーな印象を与えるようで、その呼称の豊かな響きに吸い付くように寄ってくる人達もいる。人生とは私が思っているように上手くはいかないものだ。今、私はある弦楽奏者と付き合っていて彼だけはその呼び名で私を呼ばない。それは彼の優しさなのか同情なのか私には計りかねるが、私にとって悪魔の音楽というより何者でないその蔑称を謳わないだけでも、この私には癒しに感じられるのである。彼曰く、その呼び名は君には合わない、と...雨の多いある日のこと、私は買い物から帰ったばかりの濡れ髪のままで飼い犬の迎えに応えていた。テーブルの上に一片の書き置きがしてあって、「君のメモには一つ抜け落ちがあった。ちょっと出てくる」それが彼の最後の言葉だった。その日、街ではひき逃げ事故があったらしいが私は恐くて何も出来ないまま...この部屋にはTVも新聞もない、彼がここにいた事も誰一人として知らない。
ただ部屋の窓に雨上がり、柔らかな風と共にうっすらとカーテンにかかる陽光のコントラストが、私の声にならぬ心持ちをトントンと叩いた。
ただ部屋の窓に雨上がり、柔らかな風と共にうっすらとカーテンにかかる陽光のコントラストが、私の声にならぬ心持ちをトントンと叩いた。


